突然の終わり

 
どこにでもある、誰の目にも同じように写る日常だった。巨大な才能とは無縁の、何の変哲もない毎日だった、どこにでも転がっている毎日。学校ではノートを取り、居眠りをし、クラスメイトと話し、昼間の多くの時間を教室と廊下で過ごした。一日が終わる頃には真っ直ぐに帰路について、飯を食って風呂に入ってテレビを見て、宿題を終わらせ、真夜中になる頃にラジオを聞きながら眠った。僕は、そんな自分の日々や毎日に対して、特に不満や不平を抱くことなくこれまで人生を過ごしてきた。
 

幸福な一日

 

その日、菜々はカーテンの隙間から差し込まれた光に照らされ、心地よく目を覚ました。寝起きの気だるさが全くない透き通るような朝だった。窓を開けると真っ直ぐな太陽の光が視界に飛び込んできて、眩しさで手の平を空に伸ばし目を細めた。スーッと空気を吸い込んでハーっと吐き出すと、自然に口角は上がり幸福な気持ちを感じることができた。「こういう朝って本当に素敵」涼しげな風をその身に受けながら菜々は心からそう思った。その日は、菜々にとって幸福な一日になるはずだった。

 

朝の準備をテキパキと終わらせ家を出る。いつもならこんな高いヒールは履かないけどなと思いながら、8センチあるヒールを選んだ。今日はお化粧も頑張ったし、それに最近モデルウォークをヒッソリ意識して歩いていた甲斐あって、この前エミから「モデルさんみたいに綺麗に歩くね」と言われて嬉しかった。とんがったヒールのコツコツとした音は、なんだか自分の気持ちを少しだけ上げてくれるような不思議な音がするんだ。

 

地下鉄の窓ガラスに映った自分の黒い影は、いつもなら目を背けたくなるくらい嫌いだけど、今日は目鼻立ちの整った美女に見えた。すれ違う女達を値踏みしてみれば、私の方が綺麗に思えて優越感が湧き上がってくる。駅で電車を降りた時には、すれ違う若い男と目が合った。職人風のその男は、ガラの悪い髪型をして真っ直ぐに菜々を見つめていた。目が合った瞬間、男の細くツリ上がった目が下に落ちた、男は奈々の視線に照れたのだ。当然のことながら、そのことを菜々は一瞬のうちに理解することができた。悪い気がしなくてちょっとだけニヤついてしまう。良い女って思わせてくれる男は悪くない、全然タイプじゃないのに少し気になってしまう。

 

その日、仕事を終える間際には同僚の岩井から声をかけられた。「今日はお疲れ、なんかお腹減っちゃったね」「そうですね」ニヤけた顔の岩井に、奈々は作り笑いで応戦した。「いつも仕事終わったら何してるの?」「はい?」奈々は岩井を見た。「いや、彼氏と夜ご飯かなあみたいな」岩井は口笛でも吹くみたいに言った。岩井の内側から発せられる不自然な好意を奈々はしっかりと受け止め足早にオフィスを飛び出した。「いや、特に何もしません。お疲れ様です」岩井がそれ以上何かを言いたそうにしていたけれど、構うものかと思った。この人とは仲良くしなくても問題は起こらない、仕事上。一瞬のうちに頭の中で正しい計算式が作り出された。女っていうのは男が思う以上に打算的である。それに、今日はこの後はエミとの約束があるんだ。

 

新宿でエミと落ち合ってそのまま日比谷線で六本木へ。「今日は金曜日だし、六本木ならタクシーで帰っても一万円も行かないから問題ないよね?」エミは悪戯な微笑みで奈々を見た。彼女の綺麗に整えられた歯並びと、笑うと頰の右側に凹むエクボは凄まじく魅力的だ。「そうね」と菜々も同意して笑った。二人とも、週末の夜の、これからはじまるミッドナイトを心待ちにしていたのだ。

 

それにしても、六本木にはカッコイイ男がいっぱいいる。煌々とさんざめく夜の街を見渡しながら奈々は思った。スーツを上手に着こなす紳士、アイドルみたいに綺麗な顔をした若者、街を歩いてるだけで目があっちへこっちへ泳いでしまう。「どうして六本木には、カッコイイ男がいっぱいいるの?」菜々は言った。「金曜日の夜だもん、誰でもカッコ良く見えるものよ」エミの言葉はいつも達観したような口ぶりだ。「そういうものかなあ」

 

エミが予約してくれたお店は、内装が綺麗なお洒落なバーだった。外観は古民家みたいに見えるのに、中々センスが良さそうだ。カウンター席は八つ、テーブル席は二つだけ、こぢんまりとした雰囲気を奈々は気に入った。二人が入店したときは、品の良さそうな男女がひと組いるだけで、店内にはゆったりとした時間が流れていた。「良いお店ね」奈々がいうと「そうみたいね」とエミは言った。「意味わかんない洋楽がかかってないのがいい」そう言うエミの意見には激しく同意をした。

 

カウンターの奥では、蝶ネクタイを過不足なく装着した中年のバーテンダーが無言で淡々と業務を遂行していた。男は静かな深い声域で声を発し、その魅力的な声に見合うだけの知性を兼ね備えているように見えた。カウンター席に座った二人は、最初のうちは、バーテンダーを交え三人で世間話をした。その会話自体は非常に楽しく実りある会話だったように思える。バーテンダーは二人の話しに真剣に耳を傾け、どちらかが質問を投げかけたときだけ会話に交じり回答を二人へ差し出した。そのうちに、二人がガールズトークに花を咲かせはじめたのを察すると、バーテンダーは自然に会話の流れから退場し、また黙々と仕事に戻るのであった。

 

それから、二人はどのくらいの時間語り合っていたのだろう。恋愛の話や仕事の話をした、将来の話もした。いろいろな話をした。三杯目のレッドアイは、いつのまにかほとんど空になっていた。多分二時間くらいは経っていた思う、そんな時だった。店のドアが開く音が聞こえ、背の高い男二人組が店に入ってきた。奈々は、彼らが発するオーラを横目に捉えた。二人はこの店の常連らしく、バーテンダーとアイコンタクトをとると、慣れた動きでテーブル席に座った。奈々はチラッと男たちを見た。彼らは、ビックリするくらいかっこいい男の子二人組だった。「ねえエミ」と声をかけて「あっちを見て」とそそのかす。彼らを見たエミも「かっこいいね」とホッと顔が明るくなった。「金曜日の夜だからかな?」と聞くと「あれくらい綺麗な男なら月曜日の朝でもカッコよく見えるね」とエミは笑った。私たちの意思は、疎通したようだった。

 

テーブル席の向かい側にいる彼は、帽子を被り黒い無地のロングTシャツを着ていた。リングのシルバーネックレスは黒い洋服にぴったり寄り添うようにキラキラと光っていて、彼が放つイケメンオーラをいっそう強く装飾していた。テーブル席の手前に座っている彼は、細身で頭の形が綺麗で、茶色い色に染まった髪の毛は女性のようにツヤツヤとしていてイイ匂いがしそうだった。二人とも見事な目鼻立ちで、その上一つ一つの顔のパーツがバランスよく顔の各部位に配置されていて、もう申し分ない美男子だった。一つだけ欠点を挙げるとすれば、いやらしい妄想の相手にはできそうにないことぐらいだった。

 

「あっちから近づいてきてくれればいいね」なんて二人はひそひそ声ではしゃいだ。「こっちが視線をもっと送れば気がついてくれるかも?」なんて細やかな計画だって練り始めた。二人とも、遊びのように見えて案外本気だった。でも、結論から言えばその作戦が功を奏すことはなかった。もっと言えば、その作戦は実行されることもなかった。彼らには、連れがいたのだ。ほんの十数分経った後、遅れて到着した二人組の女が店に入ってきた。二人とも部屋着のようなラフな格好でスニーカーを履いていた。女達はそれぞれの男の隣に腰掛け4人でお喋りを始めた。彼女たちも、男たちに負けないくらい綺麗な女だった。奈々は少しでも期待した自分を馬鹿らしく思った。

 

「そろそろ、いこっか?」しばらく経ってそう最初に言い出したのは奈々からだった。「そうだね」エミも同意して席を立った。お会計済ませて立ち上がっとき、お手洗いから戻ってきたと思われる四人組の中の女の1人と相対した。女は「あ、どうぞ」と奈々達に通り道を譲るように横に逸れて微笑んだ。奈々は一瞬立ち止まり、女を見上げた。顔の小さな色白の美しい女だった。「ありがとうございます」そう言ってそそくさと店を出た。

 

エミと駅で別れ、なんだか疲れを感じながら電車に乗り込んだ。不快なモヤモヤが心に湧き上がっていることに奈々はその時気が付かいた。ハッと顔を上げ、つり革を掴む手を少しだけ強くした。夜の街に反射した車窓に映る自分と目が合った。目の前には、大嫌いな自分の姿があった。ほうれい線が目立つ頰と、への字に曲がった口角、取れかけたアイプチの2重のラインが醜かった。目を背けるように周りを見た。奥の方で笑い合うカップルたち、ヘッドフォンで音楽を聞く男、疲れた顔のサラリーマン、学生。ふとヘッドフォンの男と一瞬目が合った。男はサッと横に目をそらすとウォークマンに視線を戻した。

 

不幸な偶然


初めての海外旅行の前夜、和子は極めてナーバスな状態に陥っていた。明日は早起きしなきゃいけないっていうのに全く寝付けない。布団をかぶって目を瞑ってジタバタ寝返りを繰り返す。最初のうちは羊を数えたり幸福な妄想に励んだり色々試したけれど全然うまくいかない、眠れない。いつの間にか何をする気も失せて、いよいよ目を瞑るしか、することがなくなってしまった。頭の中を駆け巡っているのは、過ぎ行く時間の流れに比例して減って行く自分の睡眠時間一秒一秒だった。


我慢の限界がきて、こんな時間に電話をかけるのは非常識だとは思いつつリサに電話をかけてみた。「こんな時間にごめんね」と言えば彼女は許してくれるだろうと判断したのだ。でも、もちろん彼女は電話には出てくれない。もう寝ているのだ。そりゃそうよねと思いつつ、もう一回だけ電話をかけてみた。やっぱり出てくれなくて、それ以上しつこくかけるのはやめた。買ったばかりのiPhoneXを枕元に放り投げて三度布団の中で目を瞑る。あゝどうして自分はこんなにも心配性なのだろう?和子はこういうとき、いつも自分の性格を呪うのであった。旅行前だとか試験前だとか、大切な用事の前はいつも不安ばっか大きくなってしまう。


イギリスまでは成田から北京を経由して行くことになっていた。リサが航空機にお金を使うのは馬鹿らしいと言ったので格安空港を選び直行便を避けた「でもさ、行く途中でなんかあったら困るし直航便にしようよ」と和子は言ったけどリサは聞く耳を持ってくれなかった。リサは良くも悪くもリーダーシップなのである。


リサが旅行先としてイギリスに行ってみたいと強く和子に主張をしたとき、和子はイギリスという国に関して自分が思い出せる限りの全ての記憶を引っ張り出し考えてみた。結論からいえば、イギリスという国そのものに行くことに関しては問題はないと思えた。この前見た旅番組でテレビに映し出されていたロンドンの町並みは街全体がお城みたいで綺麗だったし、水も空気も北京に比べれば綺麗そうに思えたからだ。ただ、そんなことを抜きにしてもユーロッパという世界情勢にはいささか問題があるとも、同時に思うのであった。極めて歪んだ宗教的な思想を振りかざし暴挙に出る人々が多そうだという懸念である


「ヨーロッパって言えば、この前だって大きなテロがあったじゃん、うちらがたまたまテロに巻き込まれないとも限らないから、アメリカとかにしようよ」和子は不安そうに言った。「んー、確かにヨーロッパはテロ多そうだけど、そんなことを言い出したら何もできなくなっちゃうよ」リサの口ぶりは、まるで怖いものがこの世界にはないと言わんばかりだった。「それにアメリカとかに行ったらピストルで撃たれるかもよ、ほらアメリカ人ってピストルが大好きでしょ。隣国のメキシコなんてドラック帝国だしあそこら辺は最悪よ」そんな風にマシンガントークでリサに物申されると、和子はいよいよ思考が停止してしまうのであった。特に反論を思いつけなくて「じゃあイギリスにしようか」と言うと「決まりね!」とリサは嬉しそうに笑った。


イギリス旅行は一週間を予定していた。細かいスケジュールは私に任せてとリサが言ってくれたから和子は彼女の言う通り、細かいスケジュールは任せることにした。自分は自分の身の回りの心配だけしれてばよかった。まあ、とはいえ結局渡航一週間前辺りから準備を始めたのが事の顛末であり齷齪したのは言うまでもない。出発日の数日前に「準備できてる?」とリサに聞かれ、あんまり準備が整ってないことを告げ大いにお説教を食らってしまった。でも和子は心の中ではこんな風に思うのであった。「仕方がないじゃないか、そんなことよりも日に日に高まっていく私の不安心を収めるのに私は必死なんだ」何故なら、実際に和子は、円をポンドに換金したり、保険付きのクレカを契約したりしながら、ありとあらゆる種類のパラノイアに身の内を取り憑かれていた。飛行機は落ちやしなかな?とか、スリには遭いやしないかな?とか、テロには遭いやしないかな?とか。そして度々全ての作業を中断して、何度も何度も、航空機が墜落する確率や、テロに遭う確率に関しての情報をサファリブラウザで調べていた。


例えば、自分が搭乗する飛行機の副操縦士が、ジャーマンウイングス9525便の副操縦士みたいな人間であったらどうしようと和子は夜な夜な身を震わせていた。そんな出来事が、ジャーマンウイングス9525便墜落事故のような出来事が、万が一にも自分に身に降りかかる恐怖に怯えていた。2015年3月24日、アンドレアス・ルビッツ ーというこの世界で最も凶悪で無慈悲な航空飛行士は、航空機を故意にフランス南東に墜落させ乗員乗客150名の命を一瞬にして(自分の命と一緒に)この世界から抹消した。木っ端微塵に粉砕された一人ひとりの未来に自分の人生を重ね合わせると和子は自分の心がぐちゃぐちゃに乱れていく感覚に陥った。リサが言うように「そんなことを言い出したら何もできなくなっちゃう」なんて言葉は確かにその通りなのかもしれないけれど、和子はどうしてもそんなことを考えてしまう性分なのだ。


そして結局一睡も眠れずに朝を迎えた。早朝になり寝坊せずに起きてきたリサが電話を寄越してきて、朝が来たことに気が付いた。「もしもし、寝てるよあんな時間」リサはいのいちばんでそう切り出した。「ごめんね、あんな時間に電話かけて」「またつまらない妄想してて眠れなかった?」「まあね」和子は言った「飛行機でぐっすり眠りな、着いたら起こしてあげる」そう言ってリサは電話を切った。リサはむくむく布団を出て準備を始めるのであった。不幸な偶然に、遭遇してしまわないことを願いながら。

秒速30万キロの恋

 

 

光が伝播する速さは299792458 m/s(≒30万キロメートル毎秒)と定義されている。光速は、宇宙における最大速度であり、時間と空間の基準となる物理学における特別な意味を持つ値でもあるのだ 「はあ〜?」 七海は首を傾げた。何言ってんのかなあこの人。 すかさず手を挙げて聞いてみる。「先生、分かりやすく説明するとどういうことですか」

 

先生は分かりやすく説明してくれた 「えーとだなあ、つまり光は秒速30万キロで飛ぶんや。地球の円周は赤道上4万キロやから、光は一秒間に地球7周半できるぐらい早いっちゅうことや」 「へえ〜」 七海はそこそこ理解した。最初からそう言えばいいのに。

 

地球7周半かあ、てことは光に乗ってスッ飛んでいけば達也のところまで一瞬で行けるじゃん。七海は先生の話しを聞くのを一旦止めボーフレンドである達也のことを考え始めた。達也とはバイト先で初めて出会った。学年は同い年だったけど、達也は三月生まれの早生まれだったから私の方が一歳だけ年上だった。私は一般的な公立の商業高校に通っていて、達也は名門の私立高校に通っていた。

 

 

七海は達也と友達付き合いを初めて間も無く、なんとなく予想してた通りに、達也に向かって真っ直ぐな恋に落ちることになった。童顔な見た目のくせして大人びた達也の喋り方は魅力的なギャップであり、そのギャップは達也を賢くカッコ良い男の子に見せるのであった。自分の予想と反したのは、自分でも思っていた以上に達也に深く惚れ込んでしまったことだった。文字通り理性が吹っ飛ぶような燃えるような恋だった。こんな気持ちになったのは初めてだった。結婚したいと素直に思ったし、達也の子供が欲しいと思った。

 

なのに、私たちの卒業が迫った頃、達也は東京の専門学校に通いたいと言い出した。てっきり地元に残ってくれるものだと思っていたから横やりに脇腹を刺されるような激しいショックに見舞われた。どうしよう、離れ離れになってしまうじゃん。専門なら近くにもあるよと私は達也を必死に止めた。でも結局達也は行ってしまった。 「俺は東京じゃなきゃダメなんだ」そんなことを言って。「え、東京じゃなきゃダメっておかしくない?」そう言ったけど意味はなかった。

 

でも、それでも七海は達也を信じることにした。 「俺達なら、遠距離でもやっていける」達也がそう言ってくれたから。達也がそう言ってくれるなら私たちは大丈夫だ。七海はそう思うことにした。達也の言葉を信じ、そして達也の後ろ姿を笑顔で見送った。しかし、実際のところ、やっぱり現実はそんなに甘くはなかった。世間一般的には遠距離恋愛は続かないという科学的な論拠があり、いくら毎日電話やメールをしていたって、単純接触効果が成し得る対人関係の原則はやっぱり遠距離では通用しなかったわけだ。

 

二人の遠距離恋愛が始まって概ね二ヶ月ぐらいが経過した頃、毎日のようにやり取りをしていた達也からのLINEの返信が滞るようになった。なかなか既読がつかなくなり、既読がついてるのに返信が来なくなり、既読がついてるのに達也はSNSを更新した。 重たい女だと思われるのは嫌だったけど、いてもたってもいられなくなった。気がつけば重たいメッセージを書いてしまう。そして秒速30万キロの速度で達也の元に、自分の愛をめい一杯詰め込んだメッセージを送信した。「届け」と願いを込めて送信した。んで、後になって自分が送信した言葉の数々を見直して後悔した。自分が選択した無数の言葉達の一部、あるいは全部は、全くもって秒速30万キロでかっ飛ばす言葉ではなかった。言葉には伝えるのに適した速度というものがある。

 

それでも七海の心は達也との距離が疎遠になるたびに加速していった。そのうちにこんな気持ちは音速も光速も超えてしまうんじゃないかと思った。このままじゃ、日常生活に支障をきたすほどだった。私生活にブレーキがかかる恋は悪夢だ。だから、悪夢から覚めるためにも、達也に今、会う必要があった。思い立ったときには七海は行動を始めた。全てのスケジュールを一切無視してありったけのお金と時間を作って達也に会いに行ったのだ。

 

新幹線に乗って東京へ。久しぶりに会う達也の目つきは、昔よりもギラギラして見えた。達也は終始無愛想を崩さず、何故だかろくに口も聞いてくれなかった。不穏な空気のまま一日が過ぎる頃に気がついた。七海と達也の間には、すでに関係は存在しなかった。別れ際、七海は最後の力を振り絞って、泣きそうになりながら声を出した「今日泊めてよ」「散らかってるからダメだ」 「いいよ気にしないよ」「でもダメだ、ゴメンな」

 

その日の帰り道、七海はフラれた。 「ごめん、お前に悪い点は何一つない、でももう別れよう」達也からのLINEは驚くほどに唐突で無機質だった。私に悪い点は何一つない、なんて酷い言い方するんだろう? 秒速30万キロで放たれた達也からの言葉は、七海の胸を深く回復不能なほどに貫いた。

 

嘘ばっかじゃん。七海の恋は、終わった。

日本語には涙雨なんて素敵な言葉があるのを君は知ってた?

 

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自分にとって「英語」という言語を獲得するということは、自分の人生を左右させる大きな転機になるんだろうだと、これまで信じて疑ってこなかったけれど、実はそんなこともないのではという純粋な疑問を早くも抱き始めている。そもそも、英語が喋れないから英語に触れられないなんて只の言い訳でしかなかった。英語が喋れなくたってラリーペイジの言葉を一語一句理解することが、今の時代ならできる。ユーチューブの音声翻訳機能はあまりにも充実しているし、インターネットには彼のこれまでの言動が溢れかえっている。大切なのは英語という言語を堪能に扱えるかという問題ではなく、自分がどのくらいラリーペイジの言動を深く理解したいと強く思うのかということだった。たしかに、今の自分じゃ、よく知らない英語を読んだり聞いたりすることは一苦労だけれど、それがなんだと思うわけである。どんなに辛くたって振り落とされないように、しがみ付いていれば、それでいいんじゃないだろうか。アヴィーチーだってスウェーデンで生まれ育ったし、リーナストーバルズだってフィンランド で生まれ育ったじゃないか。自分は、これからも英語という言語をあくまでも選択(好きだから)していくし、日本ではないどこか別の国を居住地としては選び続けるんだろうけれど、でも英語が偉大だという幻想は英語に近づけば近づくほど消えていくんだということを肌で実感しているし、ていうか自分はけっこう日本語が好きだ。村上春樹が書いた小説をいっぱい読めるし、細田守が作った映画をたくさん見れるし、涙雨なんて言葉がある日本語がけっこう好きだ。

セブンイレブンのピーターパン(短編小説)

 

私がよく行く会社の近くのコンビニで、アルバイトらしき茶髪のイケメンお兄さんが居たんだけど、

お兄さんはお客さんが少ない時に、いつも直立不動で小さいノートに何かを真剣にメモしてるんだよね。

自動ドアの扉が開いてお客さんが入ってくる度に、メモるのを一旦やめて接客業を始めるんだけど、お客さんが居なくなるとまた直立不動で小さいノートにメモを始める

お兄さんは気がついてないかもしれないけれど、暇さえあればノートに何かを真剣にメモってるお兄さんの姿を頻繁に見ていたんだよ

私はいつも、そんなイケメンお兄さんをチラ見しながら、イケメンの癖に勉強熱心なの?何書いてるの?って興味津々になっていて

だから私はとある日の日曜日の夜、勇気を出してお兄さんに聞いてみたんだ「いつも何をメモってるの?」 お兄さんは一瞬呆気に取られて、温まったお弁当とサンドウィッチを袋に詰めながら「はい?」って言いながら私を見上げた。

そんな見られても困ってしまうけど、私はひるまずお兄さんを見つめ続けた。

しばらくしてお兄さんは、自分が何を答えるべきかを理解してくれたようで「あ、えっと、夢とか希望とか書いてました」って真面目な目つきで私にそう言ったんだ

私は正直びっくりして腰を抜かしそうになったけど、そこは私だって大人だよ。「あ、そうだったんだ。叶うといいね」って塩対応を装った。一言「仕事ちゃんとしなよ」って説教してやってもよかったかも。

でもね、私の性格上、内心は貴方のその夢を聞かせて欲しいと思ってて、他のお客さんが並んでたので立ち話しもなんだと思ってそのままお店を出てしまった。

なんであの時全部聞かなかったんだろ、って実は今ちょっと後悔してる。だって、その後お兄さんをコンビニで見かけることは二度と無かったから。もしかて、あのイケメンお兄さんって実はピーターパン?おとぎの国に帰ってしまったのかもしれない。

でまあでも、夢を叶えに飛び出したとすれば、しっかり叶えてほしいと願う今日このごろであります

みたいなドラマティックな出来事身の回りで起きないかなあ!!

技術者とはどんな人間かを端的に説明する(エッセイ)

 

世の中の多くの人々は、途中であまりに多くの決定を下す事なく、できるだけ早く結果に到達する事に興味がある。過程のことを考えると挫折しそうになる。過程はなるべく簡単にしたい、そう考える。なぜなら大切なのは結果だから。結果がダメなら過程も全部だめだと考える。なぜなら過程には実質的な意味はないから。でも、技術者は違う。彼らは、計画プロセスそのものを楽しむ人種である。部品から複雑なシステム(家、コンピューター、家具)を組み立てるのを好む。慎重に各部品の調査を行い、望ましい力や適応性のバランスを与える部品を選択する、彼らは最終品に向けて部品を組み立てるプロセスを楽しむ。他の人々は、このdo-it-yourself(DIY)が魅力的で価値があると思っていないが、技術者は違う。世の中には二種類の人間がいる。技術者的な気質を持つ人間とそうではない人間だ!。

do-it-yourself!愛を込めて物を作る過程を楽しもう。

https://aws.amazon.com/jp/blogs/news/amazon-lightsail-the-power-of-aws-the-simplicity-of-a-vps/