突然の終わり

どこにでもある、誰の目にも同じように写る日常だった。巨大な才能とは無縁の、何の変哲もない毎日だった、どこにでも転がっている毎日。学校ではノートを取り、居眠りをし、クラスメイトと話し、昼間の多くの時間を教室と廊下で過ごした。一日が終わる頃に…

幸福な一日

その日、菜々はカーテンの隙間から差し込まれた光に照らされ、心地よく目を覚ました。寝起きの気だるさが全くない透き通るような朝だった。窓を開けると真っ直ぐな太陽の光が視界に飛び込んできて、眩しさで手の平を空に伸ばし目を細めた。スーッと空気を吸…

不幸な偶然

初めての海外旅行の前夜、和子は極めてナーバスな状態に陥っていた。明日は早起きしなきゃいけないっていうのに全く寝付けない。布団をかぶって目を瞑ってジタバタ寝返りを繰り返す。最初のうちは羊を数えたり幸福な妄想に励んだり色々試したけれど全然うま…

秒速30万キロの恋

光が伝播する速さは299792458 m/s(≒30万キロメートル毎秒)と定義されている。光速は、宇宙における最大速度であり、時間と空間の基準となる物理学における特別な意味を持つ値でもあるのだ 「はあ〜?」 七海は首を傾げた。何言ってんのかなあこの人。 すか…

日本語には涙雨なんて素敵な言葉があるのを君は知ってた?

kotobank.jp 自分にとって「英語」という言語を獲得するということは、自分の人生を左右させる大きな転機になるんだろうだと、これまで信じて疑ってこなかったけれど、実はそんなこともないのではという純粋な疑問を早くも抱き始めている。そもそも、英語が…

セブンイレブンのピーターパン(短編小説)

私がよく行く会社の近くのコンビニで、アルバイトらしき茶髪のイケメンお兄さんが居たんだけど、 お兄さんはお客さんが少ない時に、いつも直立不動で小さいノートに何かを真剣にメモしてるんだよね。 自動ドアの扉が開いてお客さんが入ってくる度に、メモる…

技術者とはどんな人間かを端的に説明する(エッセイ)

世の中の多くの人々は、途中であまりに多くの決定を下す事なく、できるだけ早く結果に到達する事に興味がある。過程のことを考えると挫折しそうになる。過程はなるべく簡単にしたい、そう考える。なぜなら大切なのは結果だから。結果がダメなら過程も全部だ…

マリアナ海溝の最深部よりも深い愛

快適なWi-Fi環境を心の底から愛している。私のこの愛の深さは東経142度12分に位置するマリアナ海溝の最深部よりも深く、エベレストをひっくり返しても山頂が底につかないほどの深さである。もうこれ以上ないってくらい快適なWi-Fi環境を愛している。その愛を…

運命には抗えないのだということを学んだ田中さん

ある日の水曜日の朝のことです。田中さんはいつものように会社に出社して自分のデスクにつきました。朝はいつも早起きな田中さん、だから出社するのはいつも一番乗りです。田中さんの次に出社してくるのは大概いつも社長さん、「いつも早いね〜」って言って…

初めて入った美容室で

初めて入った美容室で出会った彼女の印象についてどのように語ればいいか分からない。洗練された美しさを感じる見た目とは対照的にオーラは親しみやすく明るいものだった。元気でサッパリしていて本当にいい性格だと言ってしまえば簡単だけど、実際にはそん…

この世界から分離された全く別の時空に並行して存在する世界

「朝起こしてくれなかったから大事な会議遅刻しちゃったよ」もごもごエビピラフを食べながら夫は突然切り出した。今朝私が寝坊をしたことを、彼は今思い出して文句を言っているのだ。「子供じゃないんだから自分で目覚まし時計ぐらいかければいいじゃない、…